テリーはガン病棟で夢
を見ていた・・・・


沈黙の要塞    「手術ドキュメント」


ガンの海


ガン病棟の窓がうっすらと白み始めた。
生気を吸い取られベットに横たわる初老の男テリーは、
浅いまどろみの中で夢を見た・・・

「ガンの海
黒い大海原は油を流したようにゆったりとうねり、
微かに息づく生命体を浮かべ静に眠っていた。

「司令官!全艦隊の出撃準備が整いました。
これより各艦の艦橋の三次元モニターを起動いたします!」
沈黙を破り副長の声が旗艦艦橋に響いた。
艦橋の空間に投影された立体映像に長官の姿が溶け入る。
その右手がゆっくりと前方を指示した。

「諸君見たまえ!生命体中央部に鈍く点滅する光がある、
その中に極めて厄介な敵が強固な要塞を築き潜んでいる。
われわれは要塞を破壊し
「ガンの海」に浮ぶ生命体を無事に「命の海」へ曳航する・・・」

立体映像の影が波打つ。
かれの鷹を思わせる眼光からはゆるぎない自信がほとばしった。

水平線からつながる漆黒の宇宙からは、
流星群がシャワーとなって艦隊に降り注ぎ始めていた・・



ガンの海に点滅する光








出動開始

スクリーン正面に進み出た副長の状況説明が始まった。

「ここ数日の高高度からステルス偵察隊がもたらした情報を分析した結果、生命体内部に構築された「沈黙の要塞」に敵の全戦闘部隊が集結している。

生命体全体への進撃準備は完了し、敵の総攻撃は夜明けとともに開始するとおもわれる・・・」

 長官が進み出た。
「これより急襲電撃作戦の説明する。
作戦開始は午前2時。作戦所要時間は2時間。
旗艦による熱線高速振動砲により中央シールドを開口する。
強襲揚陸艦は直ちに中央開口部より進入。

遮断特殊部隊は要塞を維持するライフライン根底部を遮断。
攻撃開始と同時に垂直大型離陸機A、B機は直ちに発艦。
生命体上空にて待機。戦闘終了後直ちに要塞を吊り上げ搬出。

フアランク攻撃1.2番艦は頭部左右に展開。
3,4番艦は尾部左右に展開。1、3艦は弾幕システムをオートモードとし、2、4番艦はマニアルモードにより敵ステルス部隊の反撃脱出に対応。

次に、潜水艦は生命体直下に待機。
脱出部隊を多弾頭誘導魚雷、有線ミサイル魚雷にて掃討。要塞への破壊力の大きい巡航ミサイルなどによる直接攻撃は、飛散による2次被害の危険が高く作戦シュミレーションにはない。

沈黙の要塞を完全密閉し、生命体から除去する。
これが今回の急襲電撃作戦である・・・以上」

長官の説明が終わった。




彗星が駆ける・・

「全艦発進!」
副長の声がガンの海を切り裂き響き渡った。
ゆったりとうねるガンの海原はまだ深い眠りの中にいた。

「全艦攻撃可能海域に到達!」
「強襲揚陸艦、フアランク艦進入態勢完了。潜水艦攻撃態勢完了・・・・」

各艦から次々に攻撃完了伝令が届く。

「旗艦主砲熱線高速振動砲の発射準備完了」
副長が攻撃最終準備完了を告げた・・・・
長官はゆっくりした足取りで旗艦艦橋から出た。


広大な夜空には、
長い尾を引く青白い彗星が艦隊の頭上を駆けていた・・・
「子供の頃から星を見るのが好きだった。
出来ることならあの彗星と共に広大な宇宙を旅したい・・・」
ミクロの闘いに臨むとき、
判で押したようにきまって星を見るのだった。



沈黙の要塞

「全艦戦闘開始!」
鈍い振動が足元を震わせた。
旗艦主砲の熱線高速振動波が唸りを上げる。


生命体全体を覆おうシールド正面が正確に切り裂かれてゆく。
「生命体内部へ進入開始!」
「胃部外膜浸潤なし!直ちに切り離し作業開始!」

強襲揚陸艦特殊工作部隊の目視報告が次々と入ってくる。
「外膜浸潤なし」
ラッキーだった・・・

「胃部膜切り離し完了!撤去します!」
「・・・・」

全艦隊が凍りついた・・・
異様な要塞がその姿を全艦隊の前に現した。



ミクロの決死圏

「要塞補給管及び排管切断切り離し開始!」

要塞がライフラインの異変に反応。
内部が異常発光を始めた。

要塞上部へ無数の黒光りする砲塔が次々と競りあがってきた。
「ファランクス防御CIWSシステム起動!」
要塞を囲むファランク4艦から、一斉に金属音を発する弾幕のカーテンが立ち上がる。

白色の炎に包まれた弾幕は要塞四方包んだ。極地に輝くオーロラのカーテンに似ていた。

カーテンの表面に赤い斑文が現れては次々に消滅してゆく。
要塞が放つ攻撃を弾幕は完全に遮蔽していた。

「敵ステルス飛翔体多数が弾幕内を急上昇!」
旗艦の内臓ミサイル垂直発射口からは、
自動追尾システムミサイルが次々と打ち出されてゆく。
飛翔体の機影は弾幕内で破壊され、艦内スクリーンからことごとく消えていった。

「要塞の生命反応停止!」

「弾幕防御CIWSシステム解除します」
「生命体より沈黙の要塞の切り離し終了!」

ミクロ決死圏の前線部隊から戦果が次々と入る。
「正面胃部移動。正面シールド修復接合完了!」


「作戦終了します!直ちに急襲攻撃部隊を撤収し帰還せよ」


東の空がほのかに明るさを増してきた。

「陽はまた昇る・・・・」

ブリッチに立ち、帰還するに各艦を迎える「神の手」は、
朝陽を浴びて黄金色に輝いていた。

はるか沖合の生命体は、キラキラと朝陽に輝く波頭を割り「ガンの海」を離脱し「命の海」へ曳航されていった・・・











6日目の朝

陽は昇り、北側の病室の白い壁が明るくなっていた。
目覚めたテリーは額に汗をにじませていた。

「夢・・だったのか・・・」


昨晩遅くドクターがフラッシュメモリーを持ってきてくれた。
メモリーを開くと「手術ドキュメント」が入っていた。
夢に出てくる「沈黙の要塞」の獲りたての画像も一緒だった。

テリーの額の汗は微熱から来る汗。
今日は手術からちょうど6日目の朝だった。





ガン病棟スタッフ